定年(=退職)を機に住まいをどうするかは、多くの人が直面する重大なライフイベントです。
「今の家に住み続ける」「住み替え(ダウンサイジング)する」「別の場所に買い替える」「賃貸に切り替える」──どれが正解かは人によって異なります。AFPの観点では、住宅の選択は『生活費』『資産形成』『健康・暮らしの質』『相続・承継』を総合的に考えることが重要です。
1. まず確認すべきこと(AFPチェックリスト)
- 生活費収支の現状把握:年金・退職金・運用収入・副収入を含めた手取りを把握
- 住宅コストの内訳:固定資産税・修繕費・管理費・光熱費・保険・ローン残債
- 健康・介護の見通し:バリアフリーが必要か、医療機関や介護施設の距離
- 家族・相続の希望:子どもとの同居や将来の相続対策
- 住み替えの目的:費用削減/生活利便性/環境(利便性・気候)/療養のしやすさ 等
2. 選択肢ごとのメリット・デメリット(AFP視点)
A. 今の家に住み続ける(現状維持)
- メリット:住み慣れた環境・近隣の医療機関や友人関係が継続、引越しコスト不要
- デメリット:修繕費や維持費が増える可能性、断熱やバリアフリー改修が必要なら追加費用
- AFPの視点:ローン残債がある場合は返済計画と修繕費の試算を優先すべき。現金余力が薄いならダウンサイジングを検討。
B. ダウンサイジング(持ち家を売って小さめの家・マンションへ移る)
- メリット:固定費(光熱費・税・管理)削減、維持管理の負担軽減、売却益を資産に組み込める
- デメリット:売却時の諸費用(仲介手数料・譲渡税の可能性)や引越し負担、コミュニティの再構築
- AFPの視点:売却益を運用(例:NISAや定期預金)で生活資金に充てるプランが有効。譲渡所得の特別控除や居住用財産の3000万円特別控除の適用要件を確認。
C. 買い替え(別の場所に新たに購入)
- メリット:終の住処を新築で整える、住宅性能や近隣環境の改善
- デメリット:資金負担が大きい、ローンを組む場合は返済負担が老後に重くのしかかる
- AFPの視点:退職金や資産で自己資金をどれだけ投入できるかを明確に。ローンを長期で組む場合は、年金と収入の見通しをもとに返済シミュレーションを必ず行う。
D. 賃貸に住み替える(持ち家を売却、賃貸へ)
- メリット:住まいの維持管理責任が減る、流動性(売却や引越しの簡便さ)を確保、住みたい地域を変えやすい
- デメリット:家賃の長期負担、資産を減らして自由度を得るが戻らない点
- AFPの視点:売却で得た資金を運用し、家賃を捻出する設計がポイント。物件選びでは高齢者向け設備や医療アクセスを重視。
3. 仕事(定年後の働き方)と住まい選びの関係
住まいの選択は「仕事(収入)」と密接に関連します。以下の視点で整合性を取りましょう。
- 通勤・通院のしやすさ:短時間の通勤で働き続けられるか、医療機関や介護サービスに近いか
- 働き方の柔軟性:テレワークであれば地方や郊外でも暮らせるが、対面仕事が多ければ都心近くが有利
- 収入の補完:家を売って得た資金で投資収入を作る、週数日のパートで収入を補う 等
- ライフスタイル:仕事の有無で1日の過ごし方が変わるため、近隣に趣味や交流の場があるかも重要
4. AFPが勧める「意思決定フレームワーク」
- ステップ1:資金の現状を可視化
→ 年金見込み、退職金、金融資産、住宅ローン残債を一覧化 - ステップ2:住まいに求める優先順位を決める
→ コスト削減・利便性・医療アクセス・家族の近さ 等を順位付け - ステップ3:シナリオ別キャッシュフローを作る
→ 「住み続ける」「売って賃貸」「売って小さく買う」など 3案以上で比較 - ステップ4:税制・制度の影響を確認
→ 譲渡所得の特例、住宅ローン控除の残存、固定資産税の軽減措置 等 - ステップ5:試算に基づく最終決定と実行準備
→ 売却・購入のタイミング、引越し計画、資金運用方法の決定
5. 実務的チェック(売却・購入・賃貸での注意点)
- 売却:仲介手数料・譲渡税・抵当権の抹消費用を見積もる。居住用財産の特別控除(3,000万円特別控除)の条件を確認。
- 購入:購入後の固定資産税・修繕積立金(マンション)を把握。住宅ローンを組むなら返済負担率を年金収入で試算。
- 賃貸:家賃の長期負担を想定し、売却資金の取扱(運用資金として何年分を確保するか)を決める。
- リフォーム/改修:バリアフリー化や断熱改修は、介護リスク低減や光熱費削減に直結する投資。補助金制度の活用も検討。
6. AFPからのワンポイントアドバイス(まとめ)
- 「感情」ではなく「数値」で判断する:愛着は大事だが、資産寿命を延ばすための試算は不可欠。
- 売却で得た資金の活用計画を先に立てる:浪費せず、運用・生活費・予備資金に割り振る。
- 仕事の継続は選択肢を増やす:単に収入のためだけでなく、社会参加や健康維持の側面も考慮。
- 専門家に相談する:不動産仲介・税理士・FPを連携させ、税務や相続に配慮した計画を。

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